虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます




迎えをやると言った言葉通り、真矢が会場を出てビルの一階で待っていたら、さほど待つこともなく目の前に黒っぽい車が止まった。
助手席から降りてきた男性には見覚えがあった。たしか対鶴楼へ、岳と一緒に来ていたうちのひとりだ。

「鶴田様でいらっしゃいますか?」
「は、はい」

とても丁寧な言葉で話しかけられた。

「経営企画部の森川と申します。お待たせいたしました」
「こちらこそ、お世話になります」

森川も明都ホテルグループ本社の人らしい。銀座のホテルにいた真矢は、どういう立場の人かよくわからない。
たしか岳たちが対鶴楼に泊まっている間、森川がグループの責任者のように振舞っていた。
どうやら御曹司という岳の立場を隠すためだったのだろう。
森川は後部座席のドアをわざわざ開けてくれたので、真矢はなんだか気恥ずかしくなってくる。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

真矢が乗り込むと、車は音もなくすべるように発車した。
わずかな時間で驚くようなことが続くので、真矢の酔いはすっかり醒めていた。

東京タワーを左手に見ながら運転手付きの高級車は高速道路を走り、あっという間にまで日比谷辺りに着いた。
どやら明都ホテル本社の地下駐車場に向かっていたようだ。
車が止まると、また運転手が下りてきてドアを開けてくれた。
真矢は森川に案内されるまま、エレベーターに乗ってダイレクトで最上階まで上がる。

エレベーターの扉が開くと廊下には女性が立っていた。スラリと背が高くて、パンツスーツがよく似合っている。
営業部にいる岳の妹の華怜だと気が付いて、思わず真矢は頭を下げた。






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