虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「そこに座ってくれ」
岳が応接セットに移動してきたので、真矢も座った。ふたりはテーブルを挟んで向き合う形になる。
「君のお父さんは、亡くなった先代の長男。つまり、今の支配人のお兄さんだね」
岳はゆっくりとした口調だが、確かめるような話し方だ。
この前は親戚だと言ってごまかしたが、あれから鶴田家のことを色々と調べたのだろう。
「ご両親が亡くなってからは、君は鶴田家で暮らしていた。弟の遠藤和真君はお母さんの実家の養子になっている。和文字堂の跡取りで、ひとり立ちした和菓子職人だ」
真矢はゆっくり首を縦に振る。
「君が泣くほど嫌だったのは会社を辞めることよりも、あの町に帰って対鶴楼で働くことだったのかな」
岳は真矢が話したことをはっきり覚えているようだ。
「あの時は、すべてが嫌でした」
もうごまかしようがなくて、真矢は正直に答えた。
「そうか」
岳が真矢の立場を知った以上、もう隠すことはなにもない。岳の目を見ながら言葉を続けた。
「でも、今は違います」