虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「どうして?」

「子どもの頃は嫌いだった場所でも、大人になると違った目で見ることが出来ますから」

そうかなというように、岳が首をかしげている。
ずっと陽のあたる道を歩んできた人には、わからないかもしれないと真矢は思った。

両親を亡くしてあの町に住み始めたころは、周囲から常に見られているようで落ち着かなかった。
旅館の手伝いをしていても、失敗したらどうしようと緊張していた。

大学生になって東京に戻ってからたくさん学んだし、社会人になってから経験も積んできた。
まだまだ未熟ながら、再び町へ帰ったとき何かが違うと真矢は感じたのだ。

町の人は「お帰りなさい」と言ってくれたし、中学や高校の同窓生は「よく帰ってきたね」と迎え入れてくれた。
たったそれだけでもうれしいと感じる自分がいたのだ。

対鶴楼で再び働き始めてからは、簡単な作業ではなく本格的な仲居の仕事に取り組んだ。
戸惑うことばかりだったが、ベテランのスタッフたちは丁寧に真矢を指導してくれた。

もしかしたら十代の頃にも、気遣いとか思いやりの優しい視線があったのかもしれない。
自分から避けてしまったから、周囲の人が手を差し伸べてくれているのに気付かなかったのかもしれない。
真矢自身が変わったことで、ようやくこれまで見えていなかったことがわかってきた。




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