虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「あの町は両親が生まれた土地で、自分のルーツです。好き嫌いだけでは計れないと思えるんです」
真矢の話をじっと聞いてくれた岳は、やっと真矢が考えを改めたことに納得してくれたようだ。
「君自身が落ち着いているなら、それでいい」
「はい」
「君には黙っていたが、対鶴楼へ宿泊していたのは買収するための調査だった」
真矢は驚くよりも、やはりという気持ちのほうが強かった。
叔母は対鶴楼の格を守るためだからと湯水のようにお金を使っているが、銀行からこれ以上借り入れるのは難しいはずだ。
いつかは買収の話が出るのは目に見えていたし、仕掛けてきた相手が明都ホテルグループだったというだけだ。
「叔父たちは納得しましたか?」
「いや、今のところ保留だ」
鶴田家から経営権が失われることを一番恐れているはずだから、すぐに首を縦に振るはずがない。
「もう時間は残されていないでしょう。どうしようもないところまできています」
「君は経営状態に詳しいね」
「経理担当者と一緒に帳簿を見ていましたから」
実は帳簿の数字を見るというより、給料や食材などの支払いをどうしようと悩んでいたからこそわかることでもある。
まだ岳の表情は難しいいままだ。一見クールに見えて岳は表情豊かな人だとわかっていても、町を案内した時のような柔らかさは感じられない。それだけ真矢が話し合いに参加しなかったことを怒っているのだろう。
「どうして君にだけ、金曜日の会議の話が伝わっていなかったんだろう」
「それは……」
真矢は「自分は部外者だから」と言いたくなるが、はっきり口には出せない。
たとえ身内から疎んじられていたとしても、外の人間から見れば真矢も鶴田家の一員だ。
実際に対鶴楼で働いているし、もし祖父の遺言状の話を岳に知られたら厄介なことになる。