虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


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日本各地には、江戸時代の宿場町の名残のある場所や、歴史的な景観を残す町は数多くある。
対鶴楼がある町は、新幹線の停車駅から在来線に乗り換えなければいけないし、高速道路のインターチェンジからも少し距離がある。
東京から数時間はかかるせいか、これまで観光地としての人気は今ひとつだった。

だが戦災をのがれた古い町並みや、かつての武家屋敷や大商人の別邸は歴史や建築に興味がある人にとっては魅力的な場所だ。
どうやら最近インターネットで紹介されたらしく、若者の間で評判になっているらしい。
岳のリサーチでも人気の観光地になる可能性は高いから、明都ホテルグループにとって対鶴楼の買収は損にはならないはずだ。

岳は三人のスタッフとともに、明都ホテルのグループ企業のひとつの名で宿泊することにした。
研修旅行を装うのだが、御曹司という立場を隠すために黒縁の度のないメガネをかけて普段とは印象を変えるという徹底ぶりだ。

目的地の駅に着いたのは、チェックインが始まる午後二時少し前だった。

駅の改札を出てすぐ、見慣れた高層ビルが立ち並ぶ東京とは百八十度違う風景に戸惑いを覚える。

「なんていえばいいか」

肌で感じる空気感というのだろうか、岳たちは息をのんだ。

「シンプルって言えばいいのか」

森川がどう表現しようか迷っている。あちこち旅行して目が肥えている森川にしては珍しいことだ。



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