虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
ひと味違った雰囲気は、言葉での表現が難しそうだ。
観光地にしては看板や広告といった目立つものが何もない。かといって寂れた印象でもなかった。
周囲をなだらかな山に囲まれた盆地という地形と、かつて幕府の天領だったという土地の人たちのプライドに守られてきたのだろう。
グレーや白のコンクリートや、色鮮やかな照明を見慣れた目には、どこか別世界のように感じられた。
とりあえずどんな町なのか見てみようと対鶴楼まではのんびり歩くことにした。
ゴールデンウイークを過ぎた時期とはいえ、駅周辺の観光客の姿はまばらだ。
スマートフォンの案内通りに行くと、すぐに目印の柳並木が目にとまった。
誘われるようにそちらに足を向けると、いきなりタイムスリップしたような風景が目の前に広がる。
「驚きましたね」
「ああ」
パソコンやスマートフォンの画面上で写真や動画を見るのと、実物を目にするのでは迫力が違う。
一キロくらい続く町並みの中央には小さな川が流れている。昔は小舟に荷物を積んで運んでいたそうだ。
その堀沿いに等間隔で柳が植えられ、詩的な情景をかもしだしている。
小川沿いには古い商家の家並が続き、しっくいの白い壁と黒い格子戸のコントラストが美しい。
土産物店や和菓子屋の店先には暖簾が揺れていて、まるで時代劇の中に迷い込んだようだ。