虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「鶴田真矢と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

真矢は、高杉建設の名に覚えがあった。昭和初期に対鶴楼を建てた高杉組がもとになった会社だ。
今では神社仏閣などの修復という特殊な仕事も請け負っている全国規模の会社になっている。
女将が丁寧にもてなすくらいだし、会社社長で市議会議員なら、この地方では力のある立場の人なのだろう。

「真矢、高杉さんに庭を見ていただきたいからご案内してちょうだい」
「わかりました」

高杉は仕立てのよさそうなスーツに明るい色のネクタイをしているから若々しく見えるが、四十は過ぎているかもしれない。
背はあまり高くないが、仕事柄か日焼けしていてがっちりした体格だ。
大勢の職人を取りまとめる立場だけあって、都々木岳とはまた違った意味で風格があった。

案内すると言っても、高杉は対鶴楼の庭も建物も知りつくしているはずだ。
相手の方が詳しそうだから、真矢はどうしようと悩みながら広い庭を連れ立って歩いた。

「いつ見ても、いい庭ですね」
「ありがとうございます」

話題に困った真矢は、季節柄「紫陽花が見頃です」と池を周回して紫陽花園に向かうことにした。
高杉は、ただニコニコと真矢と一緒に歩くだけだ。いったいどういう客なのかと気になりながら、真矢は庭を進んだ。



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