虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます

「この庭の紫陽花は種類が豊富で、特にガクアジサイが……」

真矢が説明しようとしたら、いきなりふたりの目の前に少女が現れた。
真矢が通っていた中学の制服を着ている。肩までのまっすぐな髪型が清潔感を感じさせるが、その頬は紅潮していた。

杏奈(あんな)

さっきまで落ち着き払っていた高杉がうろたえている。真矢は目の前の少女が高杉の娘だと悟った。

「お父さん、その女がお母さんになるなんて私は絶対に認めないから!」

それだけ叫ぶと、少女はクルリと背を向けて駆けていった。

高杉は少女の後姿を見送りながら、立ちすくんでいる。

「高杉様」

真矢が話しかけても返事がない。

「あの、高杉様。すみませんが、お母さんになるって私がですか? どういう意味でしょう」

もう一度真矢が高杉に話しかけると、逆に高杉のほうが驚いたように目を見開いた。

「ご存じなかったのですか?」
「何のことでしょうか」

「今日は、あなとと私の顔合わせ。つまり、その、見合いですが」

「は?」

高杉が必死になって説明してくれる言葉は、真矢の耳に届いても素通りしていく。

「あの、これってお見合いなんですか?」

高杉はあきれたようにうなずいた。

「真矢さんのことは以前から知っていました。ここはよく接待に利用していますし、仕事にも来ますから」



< 80 / 141 >

この作品をシェア

pagetop