虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「この庭の紫陽花は種類が豊富で、特にガクアジサイが……」
真矢が説明しようとしたら、いきなりふたりの目の前に少女が現れた。
真矢が通っていた中学の制服を着ている。肩までのまっすぐな髪型が清潔感を感じさせるが、その頬は紅潮していた。
「杏奈」
さっきまで落ち着き払っていた高杉がうろたえている。真矢は目の前の少女が高杉の娘だと悟った。
「お父さん、その女がお母さんになるなんて私は絶対に認めないから!」
それだけ叫ぶと、少女はクルリと背を向けて駆けていった。
高杉は少女の後姿を見送りながら、立ちすくんでいる。
「高杉様」
真矢が話しかけても返事がない。
「あの、高杉様。すみませんが、お母さんになるって私がですか? どういう意味でしょう」
もう一度真矢が高杉に話しかけると、逆に高杉のほうが驚いたように目を見開いた。
「ご存じなかったのですか?」
「何のことでしょうか」
「今日は、あなとと私の顔合わせ。つまり、その、見合いですが」
「は?」
高杉が必死になって説明してくれる言葉は、真矢の耳に届いても素通りしていく。
「あの、これってお見合いなんですか?」
高杉はあきれたようにうなずいた。
「真矢さんのことは以前から知っていました。ここはよく接待に利用していますし、仕事にも来ますから」