虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「今どき、こんな町が残っていたなんて」
スタッフは、みな驚いていた。これまで話題になった有名な観光地と違って、ここには生活感もある。
作り物のように整った観光地ではない、自然な暮らしそのものがこの町のよさを維持している。
川沿いの道はのんびり散策するにはピッタリだし、新緑の季節とあって揺れている柳のひと枝までが目に優しい。
「あれが、対鶴楼だな」
小川にかかる石造りの橋はゆるい曲線を描く太鼓橋だ。それを渡ると見事な門構えが見える。
敷地はかなり広いから、ここからでは全貌がわからない。岳はゆっくり門をくぐり、前庭から玄関に向かって歩いた。
よく手入れされた庭を見ながら玄関に近づくと、並んでいる従業員たちから丁寧な出迎えを受ける。
「いらっしゃいませ」
「ようこそ対鶴楼へ」
その前を通って中に入ると、ロビー中央には見事な生け花が飾られていた。
花瓶の前に立っている和服姿の恰幅のいい女性が、おそらく女将だろう。貫禄といい年齢を感じさせない笑顔といい、見事な佇まいだ。
「ようこそお越しくださいました」
女将の横に、よく似た顔立ちで鮮やかなピンクの着物を身につけた若い女性がいた。
(ああ、この人か)
まるでパッと大輪の牡丹が咲いたような美女だ。黒目がちの大きな瞳と形のいい鼻にふっくらとした唇。
自身も魅力を自覚しているのか、まぶしいくらいの笑顔を到着した客たちに向けている。
いかにも祖父が好みそうなタイプだと、岳は思った。
おそらく若女将らしいこの女性が、祖父が勝手に決めた婚約者候補だろうと察した。
「森川さまでいらっしゃいますね」
今回は隠れた視察だから、都々木の名を出さないことにしている。
「はい、森川です。お世話になります」
森川が受け答えをしてくれている間に、岳はロビーを見渡した。
仲居たちがキビキビと働いている。着物でも楽々と動いているから、よく教育されているのだろう。