神殺しのクロノスタシス7〜前編〜
俺達は、この時点でまだ。

ジュリスとベリクリーデが見つけた、キルディリア新聞に掲載されていた俺達に関する記事のことを知らなかった。

そもそも、あのキルディリア国立魔導師養成学校の視察の時。

こっそり、新聞記事に使う写真を隠し撮りされていたことさえ知らなかった。

もし知っていたら、写真なんて絶対拒否していたに違いない。

俺達のもとに、新聞は届けられていた。

だから、俺達もその記事について知っていなければならないはずだった。

だけどその新聞は、この客室に届けられる前に検閲されており。

俺達に関する記事が載っている紙面は、その時に、こっそり回収されていたのである。

だが、俺達はまだそのことを知らなかった。

もし、俺がその記事を目にしていたら。

今すぐイシュメル女王のもとに走って、これはどういうことか、と詰め寄っただろう。

キルディリアに亡命なんて、した覚えはなかった。

俺もシルナも、ただこの国に閉じ込められているだけだ。

キルディリアが、ルーデュニア聖王国に引き金を引くのを防ぐ為に。

「…私達、いつまでこの国にいることになるのかな…」

「…シルナ…」

「羽久が一緒に居てくれて良かった。これで羽久さえ居なかったら、どうにかなってしまってたよ」

俺と同じこと考えてるな、シルナ。

だけど…これは、シルナも相当参ってるな。

「…なぁ、シルナ」 

「何?」

「お菓子、食べて良いぞ」

「…へ?」

俺は、客室のテーブルの上に届けられていた、ティースタンドを指差した。

そこには、手を付けていないお洒落なお菓子達が、整然と並んでいた。

俺達は一切手を付けていないというのに、これだけは毎日、義務のように届けられる。

そしてその日が終わる頃に毎日、その手つかずのティースタンドは下げられる。

キルディリア魔王国が用意した菓子なんて、何が入ってるか分からないから、食べるのを控えさせていたが…。

…こうなっては、最早痩せ我慢するとに意味があるとは思えない。

それより、そろそろシルナに糖分を摂取させた方が良いと判断した。

何せシルナは、「頭の中に砂糖が詰まってる」とイレースに揶揄されるほどの、甘いもの好き。

一時間チョコを食べなかっただけで禁断症状が起こる、とまで言われているくらい。

そんなシルナが、これまで一体何日に渡って砂糖断ちしてると思う?

これは最早事件だ。

「…何だか、羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「気の所為だ」

事実だろ、事実。

本人に自覚があるのかは分からないが、シルナの身体は恐らく、今、深刻な糖分不足だ。

ここいらで、せめて糖分補給だけでも。

お砂糖大好きなシルナの脳みそに、糖分を行き渡らせる為に。

「ずっと我慢してて疲れただろ。食べ過ぎは良くないが、適度に食べるくらいは良いぞ」

「どうしたの?いきなり…。ずっと駄目だって言ってたのに」

「それは…。…だって、こんなに長く滞在することになるとは思ってなかったから…」

「…そうだね」

予定では、今頃とっくにルーデュニア聖王国に帰国して。

普段通り、仲間達と一緒に過ごしていたはずだったのにな。
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