神殺しのクロノスタシス7〜前編〜
この時点で俺は、まだキルディリア魔王国の新聞が、俺達が亡命した、と報道していることを知らなかった。

もし知っていたら、今頃イシュメル女王に直談判して訴えていただろう。

誰がこの国に亡命なんてするか、と。

だけど、イシュメル女王側は、その事実を徹底的に隠していた。

だから、俺達は知らなかったのだ。

「…?…何ですか、それは?」

シディ・サクメは、テーブルの上のタッパーを怪訝そうに見つめていた。

おぉ…丁度良いところに。

「糠漬けだよ」

「ぬ…ぬか、づけ?」

知らないのか?糠漬け。

ご飯欲しくなってきた。

「めっちゃ美味いんだよ、これ。食べてみるか?」

「は、はぁ…いえ、結構です。何処からそんなものを…?」

そんなものって言うなよ。

「俺の仲間が作って、餞別にってくれたんだよ」

「羽久様の仲間…ということは、もしかして魔導師ですか?」

…まぁ、魔導師だな。

令月はちょっと偏ってるから、魔導師と言えるかは怪しいが。

「そうだよ。野菜から育てて、糠漬けにしたらしい」

「野菜を育てる…?…魔導師が、ですか?」

「あぁ。畑を耕して、堆肥も全部自分達で作って、毎日水をやって…」

「…」

野菜に虫がついたら、すぐりが自分の糸でこそげ取り。

山に入って落ち葉を拾って、それで腐葉土を作って…。

…改めて考えると、あいつらのやってること、学校の園芸部の規模じゃないな。

やっぱり農業学校行けよ。

「その成果がこれ。めっちゃ美味いぞ」

「…随分と変わった趣味をお持ちの魔導師がいるんですね」

「そうでもないだろ」

確かに、あいつらのやってることは凝り過ぎてると思うが。

でも、園芸を趣味として楽しむのは、魔導師も非魔導師も関係ない。

それなのに。

「百姓仕事なんて…。魔導師のやることではありません」

軽蔑したように言い捨てるサクメ。

…それは偏見だろ。

「別に良いじゃないか。魔導師が糠漬け作ったって」

まぁ、中学生にしては変わった趣味をお持ちだなぁ、とは思うけど。

俺としては、人を殺すことしか知らなかったあの二人が。

植物という、命の育てることを学び、それに熱中している。

それだけで、心が温まる。

ツキナ・クロストレイと共に土を弄ってる時は、二人共、年相応の顔を見せる。

それが嬉しい。

「それにこれ、凄く美味しいんだぞ。騙されたと思って食べてみろよ」

「いえ…。…結構です」

ふーん。つまんないヤツ。

他人の握ったおにぎりとか、食べられないタイプ?

「…その話はともかくとして」

シディ・サクメは、こほん、と咳払いをして。

「そろそろ、考えていただけましたか」

と、聞いてきた。

「…何を?」

「この国に亡命する、というお話です」

「…」

…あぁ、それね。
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