神殺しのクロノスタシス7〜前編〜
30分後。

僕と『八千歳』とツキナの三人は、園芸部の畑の前に置かれたベンチに、並んで座って。

さっきたてたばかりの抹茶を、ずずず、と啜りながら。

ツキナが買ってきてくれたお土産のお饅頭を、のんびりと食べていた。

「美味しいねー、これ」

「でしょー?ほっくほくの粒あんなの」

世の中には、粒あん派とこしあん派が熾烈な争いを繰り広げているそうだけど。

ツキナは粒あん派なんだね。

僕も粒あんの方が好きだよ。

ぷちぷちとした皮が口に残るって言われてるけど、むしろそれが良い。

「いつか、あずきも自分で育てて、自家製のあんこを作ってみたいね」

「おぉー。それは凄いね」

本当だ。

そうすればお饅頭だけじゃなくて、大福も、お汁粉も、どら焼きも、自家製のあんこを使って作れそうだね。

広がる可能性。

「もっと畑が広かったらなー。田んぼを作って、お米も作ってみたかったなー」

「それも楽しそうだねー」

その時は、僕達、揃って魔導師目指すのやめよっか。

専業農家で生きていけそうだよ。

「ツキナは夢がいっぱいだね」

「えへへー。でしょ?」

夢があるのは良いことだよ。それだけで生きる理由になる。

僕には、やろうと思っても出来ないことだ。

「はー。お饅頭美味しかった」

『八千歳』は、食べ終わったお饅頭の包み紙を、先程の紙袋に入れようとした。

その時。

「…ん?ツキナ、紙袋の底に何かあるよ」

「へ?」

『八千歳』は、紙袋の中に手を突っ込んだ。

どうやら、紙袋にはお土産のお饅頭だけではなく。別のものも入っていたようだ。

…僕達の束の間の平穏をぶち壊すモノが。

「何これ。封筒…?」

「あ、そうだ。忘れてた!それ、お手紙なんだった」

お手紙?

「…何?誰かがツキナにラブレターでも送ったのかな?」

『八千歳』。今暗殺者の目になってるよ。

「私宛てじゃないよ。令月君とすぐり君に」

「え…?」

…僕と『八千歳』に?

「令月君とすぐり君が小学校の時の担任の先生、って人から、お手紙預かってきたの」

「…」

僕と『八千歳』が小学校の時の、担任の先生?

…誰?

「…何処で会ったの?」

『八千歳』の声が、一気に低くなった。

警戒を強めているのが分かった。

僕も『八千歳』も、人並みに小学校なんて通っていない。

だから、小学校の時の担任教師、なんて存在するはずがないのだ。

「実家から学院に戻ってくる途中の、セレーナの駅で。知らない人に声をかけられて…」

「知らない人に声をかけられても、返事しちゃ駄目だってば」

「私もそう思って、『知らない人にはお返事しません!』って言ったんだよ?」

本当にそう言ったの?

「でもその人、令月君とすぐり君の名前を出したから…」

どうやらツキナは、その時点で僕らの知り合いだと思って、警戒を解いたらしい。

無理もない。

僕だって、知らない人に話しかけられて、イレース先生や不死身先生の名前を出されたら。

先生の知り合いなのかなと思って、多少なりとも警戒を弱めるだろうから。

ましてや、このツキナ・クロストレイという女子生徒。

元々、人を疑うということをしない性格の持ち主だ。

でなきゃ、僕なんかを園芸部の部員として認めてくれるはずがない。
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