神殺しのクロノスタシス7〜前編〜
「令月君とすぐり君に久し振りに会いたいから、って。お手紙を届けてくれって頼まれて」

「…」

「はい、どうぞ。確かに渡したよ」

ツキナ・クロストレイは、疑いのない無邪気な顔で。

得体の知れない白い封筒を、僕達に差し出した。

「…」

「…」

僕と『八千歳』は、互いに視線を交わした。

『八千歳』だって、この手紙が明らかにおかしいことは分かっているはずだ。

僕らに、小学校の時の先生、なんて存在しない。

つまり、この手紙の送り主は。

僕らの昔の担任教師であると騙って、ツキナに手紙を届けさせたのだ。

何故、そんな回りくどい真似をしたのか。

何故、わざわざ手紙をツキナに託したのか。

…決まっている。

僕達に、直接会うことが出来ない理由があるからだ。

「…?どうしたの?」

手紙を差し出したのに、なかなか受け取らない僕達に、首を傾げるツキナ。

「…ツキナ」

そんなツキナに、『八千歳』が言った。

「何?」

「ちょっと、バンザイしてくれないかな?」

「へ?何で?」

「そりゃあ、来年度の豊作を祈って、だよ。はい、バンザーイ」

「おぉ!そうだね!バンザーイ!」

ツキナが素直な性格で良かった。

思いっきり、両腕を天に突き上げるツキナ。

その隙に、『八千歳』はツキナの背後に回り。

頭、肩、首、脇の下、腰等を、ぽん、ぽん、と軽く叩いた。

「…すぐり君?何してるの?」

「何でもないよー。ちょっと…背中にちっちゃいイモムシがくっついてたからさー」

「えぇーっ!取って取って!」

『八千歳』にしては、下手な嘘だけど。

それでもツキナなら騙されてくれる、と踏んで嘘をついたのだろう。

この季節に、イモムシはいない。

ならば、今『八千歳』は何をしていたのか。

身体検査だ。

僕らの担任教師を騙る人物に、盗聴器や位置探知機などの類を、知らない間につけられてるんじゃないかと思って。

「…『八千歳』、どう?」

僕はツキナに聞こえないよう、小声で『八千歳』に尋ねた。

すると、『八千歳』も小声で答えた。

「何もない」

それは良かった。

手紙以外に、何か怪しいものが仕掛けられてる訳じゃなさそうだね。

だけど、これを「良かった」と言えるのか。

僕らの名前を出して、ツキナに手紙を託したということは。

その人物は、ツキナ・クロストレイが僕達と親しい間柄である、ということを知っている。

ツキナに手紙を託せば、それをツキナが僕らに届けてくれるだろうと。

そのことを知った上で、ツキナに手紙を渡した…。

…。

「イモムシ、取れた?」

「うん、取ったよ。もう手を下ろして大丈夫」

「ありがとう、すぐり君!」

本当はイモムシなんてついてないよ、と言いたいところだが。

…手紙の送り主が誰であろうと、無関係のツキナ・クロストレイを巻き込む訳にはいかない。

そのことは、僕も、『八千歳』も承知している。

「それで、さっきの手紙だけど」

「あ、そうだ。はい!あげる」

「はいはい、ありがとー」

『八千歳』は、その手紙を受け取った。

「それじゃ、お饅頭も食べたことだし、俺達も寮に戻るよー」

「?もう行っちゃうの?」

「うん。明日からの授業の準備、まだ出来てなくてさー」

これも、『八千歳』の嘘である。

授業の準備なんて、とっくにしてる。

「そうなの?じゃあ、急がなきゃ。イレース先生に怒られちゃうよ」

「だよねー。おっかないもん、あの人」

これは嘘ではない。

「じゃ、また明日ねー」

「うん。ばいばーい」

そう言って、『八千歳』はベンチから立ち上がった。

僕も、それに続いた。

こうするしかない。

これ以上、ツキナを巻き込む訳にはいかないのだから。
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