神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

sideすぐり

ーーーーー…今朝、ツキナが預かってきたという手紙には。

俺と『八千代』に、今夜夜明け前に、ジャマ王国とルーデュニア聖王国の国境に位置する、深い森の中に来るように、と記されていた。

その筆跡は、俺もよく知っている。

かつて俺達が所属していた暗殺組織…『アメノミコト』からの手紙だった。

そして手紙には、もう一つ書いてあった。

もし、時間までに俺達が現れなければ。

その時は、手紙を託した届け人の命はない、とのことだった。

届け人…つまりは、ツキナのことだ。

俺達の命がどうなろうと、それは俺達の問題だ。

いつ死んでも文句は言えないようなことをやってきたのだから、どんな風に殺されても、文句を言うつもりはない。

そんな資格、ないしね。

だけど…ツキナは関係ない。

ツキナはむしろ、被害者だ。

俺みたいな…薄汚い元暗殺者に、友達みたいに普通に接してくれてさ。

俺が言うのもなんだけどさー…。あんな良い子、いないよ?普通。

まぁ、ちょっと間抜けだなーって思うこともあるけど。

それもご愛嬌ってことで。

…ともかく、ツキナを巻き込む訳にはいかない。

『アメノミコト』は、最低最悪の暗殺者組織だ。

だけど少なくとも、こういう時、嘘はつかない。

俺達が行かなければ確実にツキナを殺すだろうが、逆に俺達が素直に呼び出しに応じれば、ツキナの身の安全は保証される。

ツキナが無事でありさえすれば良い。

仮に俺と『八千代』が殺されたとしても、ツキナが生きてるなら良いよ。

だから俺達は、呼び出しに応じた。

勿論このことは他言無用で、もし俺達が学院長せんせーや、羽久せんせー達に喋ったら。

その時も、ツキナの命は保証しないって、ちゃんと手紙に書いてあった。

言われなくても分かってるよ。

ナジュせんせーに会ったらうっかり心を読まれてしまうから、必死に避けた。

まったく、隠し事にも苦労するよね。

こんな厄介な呼び出しは、俺と『八千代』だけで済ませて。

そして…出来ることなら、もう一度あの学院に帰りたかった。

…さぁ、そろそろ「待ち合わせ」の場所が近づいてきた。




…その時だった。

「…!?」

ガサッ、と葉が揺れる音がしたかと思うと。

隣にいたはずの『八千代』が、忽然と姿を消していた。

…一瞬にして、神隠しにでも遭ったかのようだった。
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