Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー

身を切るような冷たい風が小夜の髪をなびかせていた。

この高さでも人や車が小さく見える。

7階建ての寂れたビルの屋上の金網を掴み、小夜は立ち尽くしていた。

この金網を跨ぎ、飛び降りれば、きっと楽になれる。

何も考えなくてもいい。

何も憂える必要もない。

どうせ私が生きていたって意味なんかない。

ただ一瞬の恐怖さえ乗り越えれば・・・

小夜は靴を脱ぎ、ふと思った。

どうして人は飛び降りて自害するとき、ご丁寧に靴を脱ぎ揃えるのだろう。

それはこの世から旅立つ儀式のひとつなのだろうか。

それなら私も先人に(なら)うまでだ。

小夜は茶色のローファーを脱ぎ、綺麗に揃え、金網を掴み足を掛けた。


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