Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー
「そんな寝覚めの悪いことできるわけがねえだろ?」
男は小夜へと少しづつ距離を縮めて歩いて来る。
「来ないでください!」
「騒ぐんじゃねえよ。」
男は目の前に立ち塞がり、金網に手を付き、顔を近づけ、小夜の耳に殺し文句を囁いた。
「どうせ死ぬなら、その命、俺に預けてくれねえか?」
小夜は目を瞑り、顔を横に振った。
「嫌です。どうせ風俗にでも売り飛ばすつもりでしょ?もう誰の言いなりにもなりたくないんです!」
「勘違いするな。俺はヤクザでも風俗のスカウトマンでもない。安心しろ。」
「・・・・・・。」
「俺にはお前が必要だと言ったらどうする?」
「そんな言葉には乗せられません。いつもそうやって私は騙されてきました。もううんざりなんです!」
「そんなに死にたいのなら止めねえが、ここから飛び降りるのはやめてくれ。このビルの中には俺が懇意にしてる事務所がある。お前がここから飛び降りたら、この土地は事故物件とやらになって価値が下がる。さっきお前は迷惑はかけないって言ったよな?だったら余所でやってくれ。」
「・・・私が必要ってどういうことですか?」
そう言いながらも小夜は自分という人間がほとほと嫌になった。
この後に及んでも、まだ誰かに必要とされたいと思ってしまう。
「お前にこの世から消えて欲しくねえ、って事だ。」
男は真剣な眼でそう小夜に告げた。