Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー
「桂木さん、仕事はいいんですか?」
小夜の言葉に桂木は、手首に付けたタグ・ホイヤーを見た。
「すぐに署へ戻る。野間の野郎がきっと待ちくたびれてるな。まあ適当にくつろいでいてくれ。キッチンでもバスルームでも好きに使ってくれてかまわない。」
「・・・桂木さんの彼女さんに怒られないですか?」
不安気にそう尋ねる小夜の顔をみつめ、桂木は憮然とした。
「そんな女はいない。俺はそんな不誠実な男に見えるか?」
小夜は小さく首を振った。
「帰りは遅くなるかもしれない。ベッドルームで先に寝てろ。じゃ、行ってくる。」
「はい。いってらっしゃい。」
部屋を出ていく桂木は、小夜のおでこを引き寄せキスをした。
小夜は恥ずかしそうな顔で、桂木を見上げた。
そんな小夜の表情がたまらなく愛おしい。
小夜は笑顔で手を振り、桂木を見送った。
桂木も右手を上げて出て行く。
まるで秘密の同棲みたいだな・・・
事態は切迫しているのに、桂木の心には甘い風が吹く。
そんな自分を引き締める為に、桂木は両手で自分の頬を叩いた。