ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜


 夜は深まり、窓の外では都会の灯りが静かに瞬いている。
 シーツに包まれて、愁さんの腕の中で心地よい鼓動と、ぬくもりを感じていた。
 夢のような、でも確かに現実の時間。

「愁さん、訊いていいですか?」

 ためらいがちに声をかけると、愁さんは「うん、なに?」と穏やかに返してくれる。

「……どうして、またメディアに出ようと思ったんですか? 昔はそういうの、嫌だったんですよね?」

 数秒の間があった。
 愁さんは、少しだけ困った顔で笑って、甘えるように私の首筋に顔を埋めてきた。

「恥ずかしいな」
「今更、隠しごとはなしですよ」

 そう言うと、愁さんは顔を離してぽつりぽつりと呟くように話し始めた。
 
「僕はずっと、ケーキを作れればそれで幸せと思ってた。だけど……僕には、それしかなかったんだ」
 
 顔をこちらに向けて、だけど伏目がちで答えていく。
 
「父の言うとおり、僕は『ケーキを作るしか能がない』。それではダメだ、天音さんを守れない……って思うようになった」

 彼の声ににじむ、不安と悔しさ。
「そんなことない」って言おうとして、唇を噤んだ。
 愁さんの気持ちを否定してしまう気がして。
 今はただ、彼の気持ちをすべて聞きたかった。
 
「フランスに行って、自信がついたよ。後継者を育てるのも悪くない、って。店はもうスタッフのみんなに任せてもいいくらいになってる。だから僕は、次のステップへ進もうと思ったんだ」

 少しだけ明るい表情になって、愁さんは微笑む。
 
「じゃあ……無理してやってるわけじゃないんですね?」
「大丈夫だよ。心配してくれてたの?」
「少しだけ」

 笑いながらそう言うと、愁さんはそっと私の髪を撫でた。
 その指先は優しく、まるで大切なものを確かめるようだった。

「僕は、二人の未来を守るためなら、なんだってやるよ」

 その声に、少しだけ熱を帯びた真剣さが混じっていた。
 次の瞬間、彼はまた唇を落とす。まぶたに、髪に、首筋に──
 触れるたびに、ぬくもりが肌の奥へと沁み込み、胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。
 安心と幸福が溶け合って、世界がとろけるように甘くなる。

「ねえ、天音さん」

 耳元に、掠れるような低い声が届く。
 甘くて、くすぐったくて、全身がぴくりと反応してしまう。

「……もう一回、いい?」

 そう言って愁さんは、再び私の上に覆い被さる。
 思わず体が強張った。
 
「えっ……?」

 返事を待たずに、また唇が重ねられた。
 今度は少し深くて、余韻を残すような口づけ。
 肌と肌が触れ合い、柔らかなシーツの中で体温が溶け合う。

「……これじゃあ、すぐに実家に戻ることになるかも」

 唇を離した愁さんが、肩口に顔を埋めながら、くすっと小さく笑った。
 その声は少し悪戯っぽくて。

「も、もう……!」

 私は思わず彼の胸を軽く叩いた。
 だけど、そう言いながら「もっと」と願ってしまいそうな自分に、顔が熱くなる。

 愁さんの優しい瞳が、私を見つめている。
 近づく吐息が私の首筋をかすめ、鎖骨に、胸に、お腹に──順番に唇を落としていく。
 そのたびに息が漏れて、艶を帯びた声が喉からこぼれる。
 恥ずかしいのに、止められない。愁さんの唇が触れるたび、心も身体も、とろけていくようだった。

 何度身体を重ねても尽きることのない、静かで強い想い。

 その甘い時間はまるで、私たちだけの──秘密のレシピみたいだ。

ー 完 ー
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