新海に咲く愛
次の日、スイミングスクールへ向かった奈緒は、いつもより少しだけ緊張していた。

昨日の夜、貴弘から受けた暴力の痕跡――それを隠すためにさらに厚手の長袖水着を選んだ。
しかし、それでも心配だった。

レッスン中、海斗はいつものように優しく声をかけてくれた。

「中村さん、今日は調子どうですか? 無理しないでくださいね。」

その言葉に奈緒は小さく微笑み、「大丈夫です」と答えた。

しかし、その笑顔にはどこかぎこちなさがあった。
それでも海斗は無理に踏み込むことなく、そっと見守るだけだった。
レッスン終了後、奈緒が帰ろうとするとき、海斗は意を決して声をかけた。

「中村さん……少しお話しできますか?」

驚いた表情を浮かべながらも、「はい」と答える奈緒。

そのまま二人はプールサイドのベンチへ向かった。
海斗は慎重な口調で切り出す。

「最近、中村さん……少し元気がないように見えるんです。僕で良ければ話してください。」

その言葉に奈緒は一瞬目を見開いた。
しかしすぐに俯き、小さく首を振った。「大丈夫です」と繰り返すばかりだった。

それ以上何も聞けず、海斗もそれ以上追及することなく、「無理しないでくださいね」とだけ伝えた。



その夜、自宅へ戻った奈緒にはまたしても貴弘の怒声が待っていた。

「母さんから聞いたぞ! お前、本当に俺たち家族のためになってるんだろうな?」

姑・美智子からプレッシャーを受け続ける貴弘。
そのストレスや苛立ちはすべて奈緒へと向けられる。

そしてまた新しい痣が増えていく。
それでも彼女は声一つ上げず耐えるしかなかった。

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