新海に咲く愛
しかし、新婚生活が順調に進む中でも、過去の影が完全に消え去ったわけではなかった。

貴弘が刑務所から送った手紙――それがある日突然、新居に届いたのだ。

封筒には貴弘の名前が記されており、中には短い文章だけが書かれていた。

「俺はまだ終わっていない。必ず戻ってお前を取り戻す。」

その手紙を読んだ瞬間、奈緒の手から封筒が滑り落ちた。全身が震え、その場で座り込んでしまう。

「どうした!?」

異変に気づいた海斗が駆け寄り、その手紙を見ると眉間に皺を寄せた。

「こいつ……まだこんなことしてんのか。」

怒りを抑えながらも冷静さを保とうとする海斗。しかし、その手には明らかな力が込められていた。

「ごめんなさい……私のせいでまた迷惑を……」

奈緒が涙ぐみながら呟くと、海斗は彼女の肩を優しく抱き寄せた。

「謝る必要なんてないよ。悪いのはあいつだろ? 奈緒は何も悪くない。それに俺が絶対守るから安心して。」

その言葉に奈緒は小さく頷き、

「ありがとうございます」と震える声で答えた。
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