新海に咲く愛
その頃――



手術室前で待機していた海斗のもとへ、一人の医師が急ぎ足でやってきた。その表情には緊張感が滲み出ている。

「ご主人ですか？」

「はい！ 奈緒はどうなってるんですか！？ 無事なんですか！？」

海斗は立ち上がりながら問い詰めるように聞いた。
医師は一瞬迷うような表情を浮かべた後、静かに口を開いた。

「奥様ですが、大量出血によるショックで心停止状態になりました。
現在心臓マッサージを行っていますが、このままだと胎児にも命の危険があります。
そのため、『死戦期帝王切開』という緊急手術を行うことになります。」

その言葉に海斗は息を呑み、目の前が真っ白になるような感覚に襲われた。

「心停止」という言葉だけが何度も頭の中で反響する。

「じゃあ……奈緒は……」

「正直申し上げて、お母さんも赤ちゃんも非常に危険な状況です。ただし、一刻も早く赤ちゃんを取り出すことで助かる可能性があります。」

医師の言葉に海斗は震える声で答えた。

「お願いします……二人とも助けてください……！ 何でもいいから……絶対助けてください！」

医師は頷き、「全力を尽くします」と告げると再び手術室へ戻っていった。


廊下には静寂だけが漂っていた。
海斗は椅子に座り込むと、震える手で顔を覆いながら涙を堪えようとしていた。

「奈緒……頼むから戻ってきてくれよ……俺、お前と赤ちゃんと一緒じゃないとダメなんだよ……」

これまで強くあろうとしてきた彼だったが、この瞬間ばかりはどうしようもなく弱気になっていた。

それでも、「絶対に大丈夫だ」と自分自身に言い聞かせながら、ただ祈り続けた。
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