甘い微熱ーセフレから始まる恋ー
それでも封筒を受け取ろうとしない爽に、向井くんが無理矢理その封筒を握らせた。


「…な?」


後押しするようにそう声を掛けて、向井くんが爽の背中を軽く叩く。

視線を落とし唇を噛み締めた爽は、私と視線を合わすことのないまま、“ごめん”と最後に私だけに聞こえるくらいの小さな声で謝罪の言葉を口にして、改札の中へと消えていった。


「場所、変えるか」


周りの冷ややかな視線を遮るように、私の肩をそっと引き寄せて歩き出した向井くん。

近付いた距離から感じる向井くんの体温とふわりと優しく届いた柑橘系の香りに、また泣きたくなった。
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