最後の旋律を君に
律歌が奏希さんの家のピアノ室を訪れるのも、もう何度目かになっていた。
少しずつ指の感覚を取り戻し、奏希さんの優しい指導のおかげで、ピアノを弾く楽しさを再び感じ始めていた。
「今日もよろしくお願いします」
律歌がピアノの前に座ると、奏希さんは静かに微笑んで頷いた。
「うん。前回の復習からやってみようか」
律歌はゆっくりと指を鍵盤に置き、奏希さんに教えてもらった曲を丁寧に弾き始める。
最初の頃よりも指の動きはスムーズで、音の響きも安定している。
曲が終わると、奏希さんが手を軽く叩いた。
「すごく良くなってる。本当に才能があるね!」
「……そんなことないよ」
律歌は照れくさそうに視線を落とす。
奏希さんは少し真剣な表情になり、律歌の目をじっと見つめた。
「あのさ、実は少し相談があるんだ」
「相談?」
「うん。10月に、僕が出演するピアノのコンサートがあるんだけど……そこで、一緒に演奏してみない?」
「……え?」
律歌の指が、鍵盤の上でぴたりと止まる。
「コンサートに、私が……?」
驚きのあまり、声が震える。
「うん。もちろん、無理にとは言わない。でも、今の君なら、絶対に素敵な演奏ができると思う」
奏希さんは静かにそう言うと、柔らかく微笑んだ。
「この前も言ったけど、君のピアノの音はすごく優しくて、聴く人の心を癒す力がある。
そんな君の演奏を、もっと多くの人に聴いてもらえたらと思うんだ」
「……でも、私、響歌と比べられるのが怖い……また、観客に何か言われるかもしれない……」
律歌はポツリと本音を漏らす。
奏希さんはしばらく黙っていたが、やがて優しく口を開いた。
「君が奏でる音楽は、君だけのものだよ」
「……」
「誰かと比べるものじゃないし、誰かのために弾くものでもない。
君が心からピアノを楽しめるなら、それだけで十分価値があるんだ」
律歌は奏希さんの言葉を胸の中で繰り返す。
(私の……音楽……)
「すぐに答えを出さなくてもいいよ。でも、君が少しでも『弾きたい』と思えるなら、一緒にステージに立ちたいな」
奏希さんの言葉は、まるで優しい旋律のように律歌の心に響いた。
律歌はぎゅっと拳を握る。
(私、本当に……舞台に立ってもいいの?)
自信はない。怖さもある。
でも――奏希さんと一緒なら。
「……少し、考えさせて」
律歌は静かにそう答えた。
奏希さんはふっと微笑み、
「うん。ゆっくりでいいよ」
そう言って、再び優しくピアノの鍵盤に指を添えた。
少しずつ指の感覚を取り戻し、奏希さんの優しい指導のおかげで、ピアノを弾く楽しさを再び感じ始めていた。
「今日もよろしくお願いします」
律歌がピアノの前に座ると、奏希さんは静かに微笑んで頷いた。
「うん。前回の復習からやってみようか」
律歌はゆっくりと指を鍵盤に置き、奏希さんに教えてもらった曲を丁寧に弾き始める。
最初の頃よりも指の動きはスムーズで、音の響きも安定している。
曲が終わると、奏希さんが手を軽く叩いた。
「すごく良くなってる。本当に才能があるね!」
「……そんなことないよ」
律歌は照れくさそうに視線を落とす。
奏希さんは少し真剣な表情になり、律歌の目をじっと見つめた。
「あのさ、実は少し相談があるんだ」
「相談?」
「うん。10月に、僕が出演するピアノのコンサートがあるんだけど……そこで、一緒に演奏してみない?」
「……え?」
律歌の指が、鍵盤の上でぴたりと止まる。
「コンサートに、私が……?」
驚きのあまり、声が震える。
「うん。もちろん、無理にとは言わない。でも、今の君なら、絶対に素敵な演奏ができると思う」
奏希さんは静かにそう言うと、柔らかく微笑んだ。
「この前も言ったけど、君のピアノの音はすごく優しくて、聴く人の心を癒す力がある。
そんな君の演奏を、もっと多くの人に聴いてもらえたらと思うんだ」
「……でも、私、響歌と比べられるのが怖い……また、観客に何か言われるかもしれない……」
律歌はポツリと本音を漏らす。
奏希さんはしばらく黙っていたが、やがて優しく口を開いた。
「君が奏でる音楽は、君だけのものだよ」
「……」
「誰かと比べるものじゃないし、誰かのために弾くものでもない。
君が心からピアノを楽しめるなら、それだけで十分価値があるんだ」
律歌は奏希さんの言葉を胸の中で繰り返す。
(私の……音楽……)
「すぐに答えを出さなくてもいいよ。でも、君が少しでも『弾きたい』と思えるなら、一緒にステージに立ちたいな」
奏希さんの言葉は、まるで優しい旋律のように律歌の心に響いた。
律歌はぎゅっと拳を握る。
(私、本当に……舞台に立ってもいいの?)
自信はない。怖さもある。
でも――奏希さんと一緒なら。
「……少し、考えさせて」
律歌は静かにそう答えた。
奏希さんはふっと微笑み、
「うん。ゆっくりでいいよ」
そう言って、再び優しくピアノの鍵盤に指を添えた。