最後の旋律を君に

家族の本音

律歌は、帰り道の途中でふと足を止めた。

秋の風がやわらかく頬を撫でる。奏希さんからの誘いを受けて以来、ずっと心が落ち着かない。

(本当に……私が、コンサートの舞台に立っていいの?)

ピアノを弾く楽しさを思い出し、奏希さんの言葉に救われた。

でも、それだけでは決心できない。

また観客に「妹と比べて劣っている」と言われたら――。

また、響歌に嫌なことを言われたら――。

律歌は携帯を取り出し、画面を開く。奏希からのメッセージはどれも優しく、温かかった。

(奏希さんは、私の音楽を認めてくれた……)

だけど、その気持ちだけでは、私は強くなれない。

「……はぁ」

小さくため息をついたそのときだった。

「お姉ちゃん」

背後からかかってきた声に、律歌はビクリと肩を震わせた。

振り返ると、そこには響歌が立っていた。

「ちょっと話があるんだけど」

響歌の口調は、いつもの明るさとは違っていた。

どこか冷たく、鋭い眼差しで律歌を見つめている。

律歌は喉を強張らせた。

「……何?」

響歌はくすっと笑う。

「大事な話だから、ここじゃなくて……家の中で話そう?」

響歌の言葉に、律歌の背筋に嫌な予感が走った。

(……また、何か言われるのかな)

それでも逃げるわけにはいかない。

律歌はそっと唇を噛みしめ、静かに頷いた。

「……分かった」

家に帰る足取りは、いつもよりもずっと重かった。
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