どん底貧乏美女は夢をあきらめない
美玖はそのあと、明日からの仕事について榊と話して、ひとまず事務所を辞した。

封筒には15万円も入っていた。

申し訳ないがとても助かった。

これで家賃も払えるし、食事事情も改善される。

帰りに定期を買って明日からの昼食に必要な食材も買って帰った。

次の日から店舗を事務所にリフォームするためのデザインを考えたり、必要な物のリストを作って発注したしたりしていた。

その内に事務や電話番をしてくれるパートの女性も決まった。手が一人増えて準備の進捗具合も格段にスピードアップした。

パートの人は、大野由紀子という45歳の既婚の女性で、すぐ近くのマンションに住んでいる。

経理の経験もあり受け答えもしっかりとした女性で、中学生と小学生の子供がいるということだ。

美玖はお昼を三人分作って、いつも温かいお昼ごはんを三人で食べるようになった。

代表の榊は時々外出しなければいけないこともあり、由紀子と二人でゆっくりとお昼を楽しむ日もあった。

二人とも美玖の作るご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれる。

由紀子は気に入った料理は、レシピを書き込んでいた。

美玖は料理するのは大好きだった。

実家にいるときも母親と二人で食べ盛りの弟達の胃袋を満たすために、料理するのが日課だったのだ。

美玖は学校から帰ると遊ぶ間もなく、母を手伝って掃除や料理をしていたが、少しも大変だとか嫌だと思ったことはなかった。

弟達や父親が美味しいと言って食べてくれる事が、うれしかった。

今は生活費の節約で料理しているのですっかりお金のかからない料理が得意になった。

祖母や母が送ってくれる新鮮な野菜を使って作る料理はとても美味だ。

春に二人からキャベツが丸っと1個づつ送られてきたときは、10日間キャベツ料理だった。

ご飯を炊くときにキャベツのみじん切りを加えてご飯の量ましキャベツライスにしたり、他の野菜を色々合わせて炒め物にする。

味付けを和風、洋風、中華と調味料を変える事で味のバリエーションが広がる。

油揚げと煮込んだり、餃子の中身にキャベツだけを詰めたり、ちょっと余裕のある時はロールキャベツにする。

春キャベツはそのままサラダにしてもおいしい。

レシピを考えるだけでも楽しめる。

今は、榊や由紀子と一緒に食べるので、一人の食事より何倍も美味しく感じる。

準備に夢中になって遅くなると、夕食も事務所で作って榊と二人で食べることもある。

榊はすっかり美玖の作る節約料理が気に入っているようだ。

材料費200円にも満たない白菜丼は特に榊のお気に入りだ。

ただ白菜とかにかまを炒めて卵でとじるだけなのだが、こんな丼初めて食べたといたく感動してもらったが、当然榊が行くような高級料亭にはないし、そこらの大衆食堂でもメニューにはないだろう。

美玖考案の白菜づくし料理のひとつなのだから…

白菜を塩漬けにして、ごまでまぶした白菜の漬物と一緒に食べる白菜丼は、美玖の好きな料理の一つだ。

いつか、美玖の節約料理のレシピ本を出版したらきっと売れるというのは由紀子だ。

とにかく、2人が喜んで食べてくれるので、料理も楽しんでいる。
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