どん底貧乏美女は夢をあきらめない
この事務所の前はカフェだったので入り口を入ると正面にゆるくカーブしたカウンターがある。

カウンターの中は、コーヒーなどのドリンクを用意できるようになっていたり、大きめのシンクがあるので洗い物もできる。

後ろのドアの奥には広い空間の部屋がある。キッチンとちょっとしたテーブルが置けるモルタルの床になっていて、30センチくらい

上がったところは、4畳半くらいの洋室でクローゼットも付いている。

店舗のオーナーが、ここに泊まれるようにしていたようだ、シャワールームもある。

キッチンには大きめの冷蔵庫もあった。

体を壊してカフェを畳んだ前の店主が電化製品をいろいろ置いていったらしい。調味料などもそのままになっていて、ありがたいと美玖はキッチンを見てニマニマしていた。

そんな美玖を見て、調味料を見てそんなにうれしそうにしている人は初めてだと言って榊は笑っていたが、美玖としてはプロの使う調味料なので変わったものや、よく使うものも量が多いのでうれしい限りだ。

榊はここに美玖が住んでも構わないと言ってくれたが、それはちょっと厚かましすぎると考えて、あいまいにしている。

でも、住まわせてもらえればありがたいと心底思っている。

事務所のリフォームは予定通りサクサクと進んでいる。

まもなく打ち合わせスペースや事務スペースと空間をうまく仕切った事務所が完成するはずだ。

空間の区切り方や用途によってスペースを取って無駄なく自然に繋がるようなデザインは素晴らしく。
さすが、空間の魔術師と言われる榊大吾だと美玖だけが言っているのだが…

この空間の仕切り方は美玖にとっても勉強になった。

内装はモノトーンで統一しながらも、アクセントにビビットな色が入る。

両面使えるように造作した収納家具や観葉植物でうまくゾーニングをしている。

それらがナチュラルで優しい雰囲気を作り出していてホッとする空間になった。

必要な事務機器も入り、やっと落ち着いて仕事ができるようになったのは、美玖が働き始めて2カ月した頃だった。
< 14 / 73 >

この作品をシェア

pagetop