どん底貧乏美女は夢をあきらめない
季節は秋になっていた。

代表の榊は、不動産業や土地開発、マンション管理などを多角的に経営する榊グループの現社長の長男で御曹司らしい。

現在30歳で美玖よ5歳年上だ。

榊は社長業より、設計やデザインをしたり現場に出ているのが好きなようで、榊グループのトップには就くつもりがないと言っている。

半年前までは建築会社に籍を置いていたようだが、自分の事務所をもって独立したらしい。

榊は何度もデザインコンペに入賞しており、去年完成し話題を呼んだ蓼科の美術館は、榊の最新作品だそうだ。

榊のデザインした空間や建物をネットで調べてみたが、どれも素晴らしかった。

共通しているのは木を多用している所だ。

だからか、全体にナチュラルな優しい建物になっている気がする。

美玖は何も知らずにこんなに才能のある代表の会社に、入れてもらえたことがうれしくて、あきらめずに求職活動をしてよかったと、つくづく思ったのだった。

CADオペの仕事もあるが、榊のスケジュール管理も美玖の仕事だ。

仕事に夢中になると寝食をおろそかにしてしまう榊の生活の管理も美玖の仕事の一部になった。

とにかく3食きちんと食べる事が、最低限の事なのだ。

なるべく美玖が料理を作るのだが、夕方美玖が定時で上がると、きっと夕食は食べないだろうと心配になる。

そういう時は軽く食べられるおにぎりやチャーハンを作っておくようにしている。

そうすると朝にはちゃんと食べているので安心する。

仕事の依頼も入り始めた。

榊の名前は業界では知られていたので、豪邸のリフォームの相談なども時々ある。

そんなときは榊と一緒に現場に行って、クライアントの希望を聞いて提案するためにプレゼンを3Dで作ったりするのも美玖の仕事だ。
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