どん底貧乏美女は夢をあきらめない
こうして、KAI空間デザイン事務所は船出した。

みんなやる気にあふれていた。

美玖は榊と連れ立って行動することがほとんどで、みんなに奥様と勘違いされた。

そのたびに部下ですというのも骨が折れた。美男美女でお似合いだとか、美男美女過ぎて隙がなく似合わないとか≪どうでもいいわ!≫と心の中でわめき倒して顔では、しれっとスルーしている。

お昼は、週に1~2回くらいしか作れなくなった。美玖は榊の言葉に従って事務所の奥に棲みついた。

まるでイタチかタヌキのようだなと自分でも思っている。

事務所からのドアには鍵はかかるし勝手口もあって出入りはそこからもできる。

夜遅くまで榊を始め久美や浩平が残って仕事しているときには、美玖が夕食を作って四人でテーブルを囲んだりした。

まるで家族のようだと内心思っていた。

この事務所のアットホームな雰囲気は美玖にはとても居心地が良かった。

きっと榊の優しく思いやりのある性格のお陰だとありがたく思っている。

榊がパソコンに向かってデザインをCADで起こしていたりするときの横顔は真剣で美麗で惚れ惚れするほど男らしく魅力的だ。

きゅっと眉毛を寄せて考え込んでいる顔はセクシーすぎて悶え死にしそうだ。

そんな榊は女性の目をいつも引き付けていた。本人はあまり自覚がなさそうだが、どこに行っても注目されて大変だろうなと思う美玖だ。

榊も事務所にいるときはリラックスしていた。一番遅くまで仕事をしているのは、やはり榊と美玖である。

なので、夕食は二人で食べるときが多い。

榊は浩平にも久美にも早く帰るようにうるさく言う。

パートの由紀子は5時には必ず上がる。

そして、事務所の休みは土曜日と日曜日だが、現場での施主との打ち合わせなどが入ると土日でも浩平は出勤になる。

その分フレックスで他の日に午前中出勤した分は休むように榊は浩平に徹底させている。

美玖も榊の打ち合わせに同行することが多いので、土日出勤という日も多い。

榊はほかの日に休むようにと言ってくれるが、なかなか休めない。

榊は代休なんて取らないからだ。

事務所に住んでいるので、通勤時間もなく楽をさせてもらっているし、家賃も光熱費もいらない。

お給料から天引きしてくれるように言っても榊は聞く耳を持たない。
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