どん底貧乏美女は夢をあきらめない
暫くすると、トレイにコーヒーを二つ持って出てきた。

「ミルクがなくて、ごめん。
砂糖はあったんだけど」

申し訳なさそうに言うと、美玖の座っている前のテーブルにコーヒーを二つ置いた。

「ありがとうございます。
ブラックで結構です」

コーヒーを飲みながら話すということになり、美玖は履歴書を渡した。
しばらく履歴書を読んでいたが、突然

「あっ、自己紹介してないね。
僕はKAI空間デザイン事務所の代表の
榊大吾(さかきだいご)です。
ここは、昨日店舗があいたばかりで、
これから内装工事に入るところなんだ。
服もこんなカジュアルでごめんね。
これからここの片づけを
しないといけないんだ。
そんなことも手伝ってほしくて、ちょっと
フライングで募集をかけたんだ。
君はたしか前職は秘書だったんだね。
実は秘書的な仕事をしてもらいたい人も
募集しているんだけど、
そっちの方がいいのかな?」

「いいえ、私は工業大学の建築科卒で
実はデザインなどの仕事が
ずっとしたかったのですが、
前の会社は秘書として内定をもらって
いたため秘書をしていました。
何度も移動届を出したんですが、
通らなくて…今回求職するに当たり、
技術職を希望しているんです。
昔っからの夢だったんです。
小さい頃、近所にマンションが
建つことになって、蓮華が咲いていた
畑の空き地が、毎日どんどん変わって
いくのを見るのが楽しくて、図面をもって
ヘルメットかぶって、色々指図している
人がかっこよくて、自分もそういう何かを
作り上げる仕事がしたいと思ったんです」

思わず美玖は、前のめりに自分の夢まで熱心に語っていた。

秘書として雇ってもらいたくはない。
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