キミと桜を両手に持つ
「如月さんだったら、すごくモテると思います!」
琴森さんは嬉しそうに手を擦り合わせて私を上から下へと見た。
「このパーティーに出席される男性は30代後半から40代前半の落ち着いた方ばかりなんですが、如月さんのようなしっかりした女性をお探しの方が多いんです。しかも如月さんすごい美人じゃないですか。絶対にモテます。もしかして素敵な男性との出会いがあるかもしれませんよ〜」
「あら、すごく素敵〜。それにこの脱出ゲームってとても楽しそうじゃない?ね、如月さん」
琴森さんと詩乃さんはきゃ〜と言いながら盛り上がっている。
……ど、どうしよう……?
婚活パーティーに参加するというよりは少なくともサイト制作の為に一度パーティーを見学してみるべきなのかもしれない。でもそれよりもまずはこの脱出ゲームというものに参加してみたい気がする。
上司である藤堂さんの判断を仰ごうと振り向くと、彼はグッと言葉に詰まった。もしかすると私の顔にゲームに参加してみたいと書いてあるのかもしれない。藤堂さんは何か言いたげな、複雑な表情をして溜息をつくと、私から琴森さんへ視線を移した。
「申し訳ございませんが、この婚活パーティーには如月ではなく弊社から撮影用のスタッフを送ります。それでウェブサイトに載せる写真素材やビデオ素材を撮りたいと思います。その代わり脱出ゲームやクルーズ船の雰囲気などは私と如月が独自に確認します」
そう言うと藤堂さんは詩乃さんを真っ直ぐに見据えた。
「それでいいかな、神崎さん?」
「はい、それで問題ないです」
詩乃さんは笑いを堪えているのか、肩を震わせながらそう答えた。