キミと桜を両手に持つ
「おはようございます」
「おはよう」
前田さんは私より一回り年上の40歳。元々は国内最大手の広告代理店で働いていた。この会社には五年前に転職してきたらしい。
彼は年齢の割にはとても若く見える人で、ウェーブのかかった前髪を少し長めに伸ばして耳周りと後ろは短く切ってある。背もスラリと高くいつもお洒落な服を着ている。彼は中年のおじさんに見えないようカッコよく歳を取るという目標をかかげている。
でも今朝はよれよれで目の下には大きなクマができている。よく見ると無精髭も生えていてもしかするとこの週末も会社で仕事していたのかもしれない。
いま制作部は繁忙期。それに加えてうちのチームのもう一人のプロデューサー、上野さんが病気になってしまって治療の為1ヶ月半ほど休職している。そのため彼が復帰できるまで前田さんが彼の案件も引き継いでいる。
前田さん大丈夫かな…。ちゃんとご飯食べてるのかな……
疲れた顔の前田さんを少し心配して見ながら自分の席まで歩いて来るとPCの電源を入れた。立ち上がると早速メールのチェックをする。
えっと、サイトに入れるテキスト来てるな……。これは佐伯くんにもシェアしておこう。それからこっちは写真の入れ替えね……。
返信するものには返信、タスク表に追加するものは追加したり、私が担当しているプロジェクトの進捗状況などをチェックする。そうしている間に隣の席の皐月さんが出社してきた。
「おはようございまーす」
「花梨ちゃんおはよう〜」