キミと桜を両手に持つ
今日は藤堂さんと一緒に先日フォルトゥナで教えてもらった脱出ゲームに調査という名で遊びに来ている。
ここには5つのテーマに分かれた脱出ゲームが用意されていて、私達は難易度が一番高い部屋を選んで挑戦している。
フォルトゥナはここの全ての部屋を貸し切ってやるらしく、小さなグループに分けてメンバーをローテーションしながら一時間という制限時間もなしで遊ぶらしい。でも私達は通常のゲーム、つまり制限時間の1時間以内に全ての謎を解いてこの薄暗い密室から出なければならない。
私と藤堂さんが選んだ脱出ゲームのテーマは、とある山奥にあるホテルで殺人事件が起こり、たまたま泊まっていた探偵の私達が犯人を探し出すというもの。容疑者は5人いて、その中から一時間以内に犯人を探さなければならない。
先程から藤堂さんとしていたのは、犯人を探し当てる為のヒントの一つである木箱のロックの解鍵。
でも薄暗くて密室に二人きりでいるからなのか、彼の声がすごく婀娜めいていてなんだか全然落ち着かない。
「……もういいです。それにこの最初の部屋で私達15分も費やしてます。早く出て次の部屋に行かないと脱出出来なくなります」
私はぐったりしてそう答えると同時に部屋の中に設置されているモニターに刻まれるカウントダウンを見て少し焦った。
「それは凛桜が自分でやりたいって言ったのになかなかこの鍵を開けられないからだよ。さっきから随分と緊張してるみたいだけど、どうした?確か婚活パーティーに参加してまでもここに来たかったんだよな?……ん?」
仄暗いあかりの中で彼は妖艶な笑みを浮かべながら再び距離を詰めて来る。
「そ、それはさっきから藤堂さんが……」
「……俺がなに……?」
後ずさっていると、トンっと壁際まで追い詰められた。