キミと桜を両手に持つ

 「俺がなに……?ちゃんとこっちを見て言わないと聞こえない」

 彼は私の顎を掴むとゆっくりと彼の方に向けた。藤堂さんは口元に笑みを浮かべながら私の顔を覗き込む。さっきから私がドギマギしているのを知っててわざとやってるに違いない。

 「そ、それは、だから、藤堂さんが変にいい声で囁くから、その、集中できないっていうか……」

 「……俺の声、好きなんだ……?」

 クククっと低く笑うと再び耳の中に甘い声で囁かれる。そんな声に体から力が抜けてしまいそうで、震える足に力を入れた。

 「藤堂さん、遊んでる場合じゃないですよ。一時間以内に謎を解かないと殺人犯が逃げてしまうんですよ」

 彼を必死に押しのけると机の上に置かれたアイテムを途方にくれながら見た。はっきり言ってアイテムが多すぎて何から手をつけていいかさっぱりわからない。先程やっと一つのヒントを解いて鍵を開けようとしているのに彼が私を揶揄って遊んでいてなかなか前に進めない。

 藤堂さんは焦っている私をみてクスクス笑うと、私が苦労して開けようとしていた鍵をいとも簡単に解鍵して中身を取り出した。

 そこにはトランプのカードやメモ帳や手紙などまたわけのわからないアイテムが入っている。

「まずはこのスーツケースについてるロックの暗証番号だな。凛桜はこの暗証番号なんだと思う?」

 藤堂さんはテーブルの上に横たわっているスーツケースを指差した。そこにはまたも施錠があって暗証番号は五桁。どこかにヒントがあってそれを見つけ出さなければいけないのにヒントが多すぎて逆にわからない。

 五桁の暗証番号の組み合わせは00000~99999。という事は10^5で100000通りもあることになる。
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