キミと桜を両手に持つ

 「まぁお前ん家ほどじゃないけどな」

 蓮はクツクツ笑うと急に真面目な顔になった。

 「先週、花園さんがここに来た。お前が今どこに住んでるか知らないかって尋ねてきた」

 花園さんは一樹が今住んでいるマンションの事を知らない。あのマンションは元々二人で住めば彼女の不安を取り除けるかと思って購入手続きをしていた物件だった。でも仮審査が通って売買契約成立直後、まだ引き渡しが完了する前に例の事件が起きて婚約解消になった。すでに高額の手付金などを支払っている事もありキャンセルはしなかったが、結局彼女があのマンションを見る事はなかった。

 あの頃一樹は花園さんとの関係がどうしたら上手くいくのかといつも試行錯誤していた。婚約もそしてあのマンションも購入手続きを進めていたものの本当にこれが正しい解決策なのか、あの頃は何もかもが不確かで自分でもよくわからなくなっていた。でもそうやってできる限りの努力をしたものの苦しいばかりで、結局二人の間に実るものは何もなかった。だから彼女との事はいずれダメになったのだろうと妙に納得できた。


 「一樹、以前も言ったけど、『誰かと一緒に歩む人生は幸せだが、誰かに合わせて歩む人生は苦しくなる』。如月さんはお前に合ってる。きっと彼女となら上手くいく。なんとしてでも守れ」

 今の一樹にとって凛桜より大切なものは何もない。以前は弱い花園さんを傷つける事が怖くて何もできなかった。でも今は違う。今の一樹には何が何でも守りたいものがある。例えかつての婚約者だった花園さんを傷つける事になったとしても凛桜は必ず守ってみせる。

 「わかってる」

 一樹はそう呟くとバスケ仲間と楽しそうに話している凛桜をじっと見つめた。


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