キミと桜を両手に持つ

 「……実は両親の持ってる別荘の一つなんだ……」

 べ、別荘の一つぅ!? ってことは他にもこんな別荘がいくつもあるの!?

 目の前に広がる豪邸から視線を引き剥がすと、思わず藤堂さんの腕をガシッと掴んだ。

 「一樹さん、ご家族はなんの事業をされてるんですか?」

 ずっと個人事業の和菓子屋さんとか中小企業を経営しているくらいに思っていた。でもこの別荘を見ただけでそんなレベルじゃないのがよくわかる。

 彼は実に言いにくそうに私を見た。

 「凛桜、あまり驚かないでほしい。本当に大したことじゃないんだ。アステルホールディングスっていう会社知ってる?」

 そう言われて思わず自分が先ほどまで飲んでいたお茶の入ったペットボトルを見る。これはアステルが製造販売している清涼飲料水の一つ。アステル社は国内最大手の酒やビール、清涼飲料水を製造販売している会社で国内だけでなく海外でも広く販売されている。最近は化粧品や医薬品など様々な事業も手がけている大企業だ。

 「えっ……で、でも、先祖代々の事業って……」

 そう言ってみるものの、アステル社の歴史をよく知らない。驚いている私に藤堂さんは説明してくれた。

 「元は明治時代に始まった小さな酒造会社なんだ。それがまぁ今こんな会社になっただけ。確かに家族の事業だけど、今は家族だけでなく多くの人に支えられて成長している会社だし、俺の家族も本当にごく普通の人達だから」

 絶句している私に彼はニコリと微笑むと、ドアを開けて車から降りた。私も慌てて降りると、荷物を出して彼と一緒に玄関へ向かった。
< 145 / 201 >

この作品をシェア

pagetop