キミと桜を両手に持つ

 「い、一樹さん、待って。お風呂では私に触れないって約束じゃ……」

 どうしても一緒にお風呂に入るという彼に、私には一切触れないという条件で一緒に入ることにした。でもこうして彼に跨って密着していると、彼の硬い屹立が素肌に触れているのを感じる。

 彼は私の両腕を取って首に巻きつけると、私に甘く低い声でねだってきた。

 「……凛桜、キスして」

 水も滴るいい男じゃないけど、分厚い胸板を露わにして濡れた髪を無造作にかき上げて私を射抜くその姿は男の色気をダダ漏れにしている。そんな彼はいつもの優しい雰囲気とは全く違う野生的な雰囲気を漂わせている。

 彼が私をじっと熱っぽく見つめる中、濡れて乱れた彼の髪を指で少し撫で付けるようにして直す。毎日見慣れているはずなのにとても綺麗な人だなと改めて思う。そんな彼とこうして近くに寄り添っていられることがとても幸せだと思う。自分の愛する人が自分をこんなにも好きでいてくれる……。なんて幸運なんだろう。

 濡れた彼の髪に指を走らせると、彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。

 触れ合うだけのキスがすぐに深く濃厚なものになってくる。彼の左腕が私の腰に巻きついてきて強く抱き寄せる。右手は私の後頭部を押さえつけ、舌を絡ませながらどんどんキスを深めてくる。毎晩彼に愛されている体がこのキスの後に何があるのか覚えていて、彼を欲して震える。

 「……凛桜、俺が欲しい?」

 キスの合間にそう囁いた彼は、私と同じように理性が揺らいで激しく私を求めていている。彼が欲しくて素直に頷くと、私をザバッと湯船から引き上げた。


 その夜、海が遠くに見える月明かりの差し込む美しい部屋の中で、彼はゆっくりと優しく何度も私を愛した。そして彼の逞しい腕に抱かれて守られながら、朝までぐっすりと眠った。

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