キミと桜を両手に持つ

 「早ければ来週にはこっちに来てもらおうかと思ってる。とにかくこの繁忙期を乗り越えなければならないということもあるけど、4月に入ればまた大きな案件がいくつか動き出す。先週営業が何件か持ってきた。他のチームも手一杯ってリソース貸してくれないし、俺達だけでは多分限界。それに藤堂さんほどできるプロデューサーはなかなか見つからない。今日はまだ向こうは日曜日だからおそらく明日には彼に話がいくんじゃないかな。どうなるかまだわからないけど、とにかく今俺たちだけでやれることはやろう」

 その後前田さんとミーティングを進めるけど、私の意識は何度も藤堂さんの方にいってしまう。

 彼には何度か会ったことがある。定期的に行うアメリカ本社との電話会議でも見たことがあるし、年に数回アメリカから日本に帰って来た時にもこのオフィスで会ったことがある。

 彼の第一印象はすごく容姿の整った大人の男という感じ。彫りの深い整った顔に切れ長の鋭い目、190センチ近くある体躯は皆が思わず振り返ってしまうほどかなりの迫力がある。

 とても真面目な人なのかあまり冗談を言って笑っているようなところも見たことがなくて少し冷たいと言うか無愛想な印象もある。でも彼は低くてとてもいい声をしている。イケボというのかとにかくあの艶のある低くて落ち着いた声は安心するような優しい響きがある。

 「それじゃ、如月さん今週もよろしく。とりあえずあのアパレルのECサイトは今日からテストだよね。」

 「はい、今日からデバッグしていきます。それで来週はこの会員制サイトがテストに入ります」

 「よし、じゃあこれが無事乗り越えられたらみんなで飲みに行こう。もし藤堂さんが帰ってきたらその歓迎会も含めてさ」
 
  そっか。あの藤堂さんが戻って来るかもしれないんだ……。

 そう何気無しに思っていた私は、この週末意外な形で彼に再会することになる。
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