キミと桜を両手に持つ
「……如月さん、君とは一度ゆっくり話してみたいと思ってたんだ。これから二人で飲みに行かないか?」
薄暗い寝室だからか、紳士的で優しそうな彼が急に何を考えているかわからない見知らぬ男性に見えてゴクリと唾を飲み込む。
「ど、どうして……?」
「彼女と藤堂さんの事は聞いたんだろ?彼の元婚約者がどんな子だったか知りたいと思わないか?」
知りたくないと言えば嘘になる。それに彼女が未だ藤堂さんを気にして会いたがっているのも気になる。でも何よりも今目の前にいる神楽坂さん──…。彼は藤堂さんと花園さんが別れるきっかけになった張本人だ。
なんと答えようかと考えあぐねていると、彼はクツクツと笑った。
「別に取って食いはしないよ。ただ君と話がしたいだけだ。この近くにバーがある。……まぁこの部屋で二人で話したいというのならそれでもいいけど……」
そう言って彼は花園さんが寝ていない方のベッドへと視線を落とした。
「……わかりました。そのバーへ案内してください」
顔を上げると目をそらさずに彼を真直に見た。
「勇気ある君ならきっとそう言うと思った」
彼は私のバッグと彼の鞄を持つと「どうぞ」と言って部屋のドアを開けた。彼に促され部屋から出ると神楽坂さんは私をバーへと案内した。
ホテルから出て5分ほど歩くと彼は私を居酒屋やバーなどのお店が建ち並ぶ狭い路地へと連れて来た。
「こっち」
そう言って案内してくれたのは飲食店のあるビルの地下にあるバー。薄暗い階段が地下に続くのを見て思わず立ち止まる。
「そんなに警戒しなくても大丈夫。この辺りじゃ結構いいバーなんだ」
警戒心がマックスになっている私を見て笑うと、彼は私の前を歩いてどんどん階段を降りていく。彼が私のバッグを持っているので選択肢のない私は恐る恐る彼の後に続いた。