キミと桜を両手に持つ

 バーの扉を開けると彼の言う通りとても感じのいい店で、中も思っていたより広さがある。すでに何人か客がいてそれぞれ飲みながら楽しそうに話している。

 「こっち」

 と言って案内されたのは隅にあるカウンター席。神楽坂さんはここの常連なのか「いつものやつ」とバーテンダーに言ってバースツールに腰掛けた。

 「如月さんは何飲む?」
 
 バーに来たことがないのでノンアルだと何があるのかわからなくて戸惑っていると

 「ロングアイランドアイスティーは飲める?」

 とクスリと笑いながら首を傾げた。

 何かのフレーバーティーかな……?

 「えっと、ではそれをお願いします」

 緊張して喉が渇いている私はとりあえずそれをお願いすることにする。

 私の飲み物がくる間、彼は一言も喋らず黙ったままウィスキーをちびちびと飲んでいる。しばらくしてバーテンダーがごく普通のアイスティーに見えるドリンクを私の目の前に置くと、特に何も考えずにグラスに刺さったストローに口をつけた。

 すると一気に口の中に広がったアルコールの味で普通のアイスティーではなくかなり強いカクテルだという事がわかる。目を見開いて一瞬どうしようかと迷った末、再びストローに口をつけて口に含んだカクテルを全てグラスに戻した。そんな私を見てクツクツ笑っている彼を思い切り睨んだ。

 「ハハッ。随分とあいつの女の趣味も変わったんだな」

 「神楽坂さん、一体私に話したい事って何──」

 「君のような人間から見ると花園さんはいつも自信がなくて人の意見ばかり気にしてなんて弱い人間なんだろうって思うだろう。でも君はどうやって育ったら彼女みたいな自己肯定感の低い人間になるか知ってるか?」

 彼はウィスキーを一口飲むとコトンとカウンターに置いた。
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