キミと桜を両手に持つ
「子供の頃どんなに頑張っても誰からもその存在価値を認められずに育ったからだ」
そう言った彼の横顔をまじまじと見つめる。
「彼女ああ見えても実は良い家のお嬢様でね。花園総合病院って聞いたことある?」
彼に聞かれて駅構内などでポスターを見かけた事があるのを思い出す。都内でも有名な総合病院だ。
「彼女には歳の離れたとても優秀な兄がいるんだ。今は父親の跡を継ぐべくあの病院で働いてる。とても厳しい父親でね、兄と違って出来の悪い彼女にいつも失望してたらしい。彼女、出来ないわけじゃないんだけど飲み込みが悪くてね。大学も一浪してるんだ」
そう言ってから彼は私を振り返った。
「藤堂さんってかっこいいよな。今もかっこいいけど5年前はもっとかっこよかった。ウェブサイトの件でオフィスに来た時そりゃ凄かったよ。女の子達は皆彼に恋したんじゃないかな。どこの俳優が来たのかってくらい大騒ぎ。もちろん花園さんもそんな女の子の一人だった」
彼はクツクツ笑うと言葉を続けた。
「そんなかっこいい彼がよりによって花園さんを選んだんだ。もちろん彼女も喜んで幸せそうだったけど一番喜んだのは彼女の父親だろうな。出来の悪い家族の恥くらいに思っていた娘がいきなりアステルホールディングスの御曹司に見そめられたんだ。初めて父親に、そして家族に存在価値を認められて彼女すごく嬉しそうだった」
「だったらどうして──…」
どうして藤堂さんとの関係を壊すように彼女に言い寄ったりしたんだろう……?
「……苦しそうだったから」
彼は私から目を逸らすと再びウィスキーを飲んだ。
「彼女、ああいう性格だろ?彼と付き合ったものの幸せだったのは最初の数ヶ月だけ。綺麗な女の子達は常に彼に言い寄ってくるし、それに女の嫉妬っていうの?彼と付き合っている事がバレると色々と意地悪されたり言われたり。なんで彼女みたいな地味な女が彼と付き合ってるんだ、とかね」