キミと桜を両手に持つ
「…とにかく事情はわかった。俺もどうせ1、2ヶ月でまたアメリカへ戻ることになるし。……その、如月さんは俺が帰って来ること知らないよな」
「うん、凛桜さんには私から今電話かけてみる。彼女をあまり怖がらせないでよ。ただでさえ一樹兄さんは愛想が悪いんだから。おばさん心配してたわよ。一樹はいつになったら結婚できるのかしらって」
一樹は先日母と話した時も同じような事を言っていたのを思い出して思わずため息をついた。
「俺がまだ結婚しないのはただ単に仕事が忙しいからだ。そのうち誰かいい人に出会えば結婚する」
「本当に?まさか未だあの人に未練があるとかじゃないよね?もうあれから三年も経ってるんだよ。いい加減彼女のことは忘れて前に進んだら?今だから言うけど私はあの子あまり信用出来なかった。一樹兄さんにはもっと相応しい人がいると思う」
そう言って詩乃は電話を切った。
詩乃が心配しているのはよくわかる。でももう彼女に未練など何もない。
確かに当時はショックでここにいる事さえも辛すぎて自ら希望してアメリカまで行ってしまった。でもアメリカという全く異なった環境にいたからか意外と早く乗り越える事ができた。異なった環境や仕事、そして三年という年月は一樹が前に進むには十分だった。
やがて一樹を乗せたタクシーはマンションの前に到着した。運転手に料金を払い、スーツケースを取り出すと頭上に広がる桜の木を見つめた。
桜の蕾「花芽」はそもそも夏に成形される。そして秋に一度休眠し、寒い厳しい冬を乗り越える。そして春になると花芽が眠りから覚め、蕾が膨らみやがて開花する。なので綺麗に咲く桜の花は厳しい冬を乗り越えて新しい春が来た事を告げている。
日本の四季はやっぱり綺麗だな。帰って来てよかった。
一樹は嬉しそうに桜の木を見上げると、スーツケースを引きながらマンションの中へと入った。