キミと桜を両手に持つ
 
 「部屋に行くにはこのエレベーターを使うことになるの。覚えててね」

 「はい」

 エレベーターにスーツケースごと乗り込むと、詩乃さんは最上階の12階へのボタンを押した。エレベーターの中にはモニターがついていて、12階のエレベーターホールが映し出されている。これで自分の降りる階に誰がいるのかが一目でわかるようになっている。

 12階に着くと、左右に廊下があってその突き当たりにはドアがある。どうやらこのエレベーターで降りるこの階には部屋が2つしかないようだ。とても静かでプライベートな感じがする。

 「こっちの部屋ね」

 詩乃さんは右側の廊下へ進むと、突き当たりにあるドアの鍵を開けた。

 「……すごい広い玄関──…」

 詩乃さんに続いて玄関に入ると思わず独り言のように口から出てしまった。

 玄関は普通のマンションよりも随分と広々とした作りになっていて、大きなスーツケースを2つ置いてもそれでもまだ十分なスペースがある。しかも収納棚も沢山ある。

 「入って。あ、これスリッパね」

 詩乃さんは収納棚を開けてスリッパを取り出すと床に置いた。とりあえずスーツケースは玄関に置いたままにして、出されたスリッパを履くと部屋の中に入った。
 
 案内された部屋は全体的に白基調の清潔感ある3LDK。大きなリビングルームには窓が沢山あってとても明るい。大型のテレビやベッドとして寝転がってもいいほど大きなソファーもある。リビングの大きなガラス窓の向こう側には広々としたバルコニーも見える。キッチンも広くて収納がたくさんあり、アイランド式のキッチンカウンターもある。

 ──すごい……。こんなところ借りてもいいのかな……。

 少し圧倒されながら部屋を案内してくれる詩乃さんの後をついていく。
< 4 / 201 >

この作品をシェア

pagetop