キミと桜を両手に持つ

 「うわ……乾燥機もある…」

 広々とした洗面所には洗濯機だけでなく乾燥機もある。お風呂もお洒落なデザインになっていて新しくてとても綺麗だ。

 どの部屋に置かれている家具もいいものばかりで、黒い色調の家具は白っぽいグレーの木の床とは対照的で高級感がある。

 部屋全体の広さといいキッチンの大きさといい、独身者が住むというよりはどちらかというとファミリー物件のような気がする。



 「それでこの部屋なんだけど、ここはイトコの物置部屋なの。だからここだけは触らないようにしてもらえればあとは好きに使っていいから」

 詩乃さんは玄関に一番近い部屋のドアを開けた。そこにはダンボールが山積みになっていて彼女のイトコの荷物が沢山ある。デスクや大きな本棚もあって、本棚にはビジネス関連の本からコンピューター関連の本、英語の本やスポーツ雑誌などがぎっしりと詰まっている。この部屋の中を見るからに彼女のイトコというのは男性っぽい感じがする。

 「詩乃さん、本当にありがとう。すごく助かります。このお礼は必ずさせてください」

 私は改めて彼女に頭を下げた。

 「いいのよ。凛桜さんにはいつも仕事で助けてもらってるんだから。それに昨日も言ったけどこのマンションの部屋は今誰も使ってないの。だから遠慮しないでね。でも住んでたアパートがいきなり水漏れなんて災難だったわね。しかも会社が繁忙期のこの時期に……」
 
 「ははは……本当に……」

 詩乃さんにそう言われて弱々しく笑った。本当は水漏れなんかではないけど、とりあえず彼女にはそういうことにしてある。

 「それじゃ、私はこれから用事があるから行かなきゃいけないけど、大丈夫?わからないことがあればいつでも連絡してね。はい、これは鍵とカード」

 「本当にありがとう」

 詩乃さんから鍵を受け取るともう一度頭を下げた。

 「いいえ。それじゃ、月曜日会社でね」

 彼女はそう言って手を振ると玄関から出て行った。
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