キミと桜を両手に持つ
どうすれば良いのか分からなくてしばらく思い倦ねていると
「もし俺が怪我したり病気になった時、凛桜はどうする?」
と藤堂さんは尋ねた。
「もちろん看病するに決まってます!」
「だったら俺も一緒。凛桜が困ってる時は手をかしたい。だから俺が困ってる時は手を貸して欲しい。これから一緒に暮らすルームメイトとしてお互い助け合うっていうのはどうかな。俺を信じて欲しい。絶対に悪いようにはしない」
彼は手を伸ばすと私の両手をぎゅっと握った。
「これからは君には俺がいる。何か困ったことがあれば俺に頼ってごらん」
──これからは俺がいる──…
そう言ってくれた彼を思わずじっと見つめた。
どうしてこの人はいつも優しいんだろう……。彼が仕事でも色々な人に慕われている理由がわかるような気がする。
「……わかりました。ではご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
それを聞いた彼は満足そうな笑みを浮かべると、まるで小さな子供でもあやすように私の頭をくしゃりと撫でた。
「よし。この話はこれでおしまい。夕食だけどこれから近くの居酒屋に行かないか?結構美味いんだ。正式に同居するお祝いってことで」
その後、私達はぶらぶらと居酒屋へと向かって歩いた。一ヶ月前はこの通りに満開で咲いていた桜も今は散ってしまい葉桜が美しい季節へと移り変わっている。
「今日から正式なルームメイトとしてよろしく、凛桜」
藤堂さんは一ヶ月前あの部屋で会った時と同じように大きな右手を差し出した。私もあの日と同じように右手を差し出す。
「はい。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
頭上に芽吹いた柔らかい新緑に包まれながら、私達は笑顔でもう一度握手を交わした。