キミと桜を両手に持つ

 藤堂さんはクツクツ笑いながら指をするりと私の頬に滑らせると、長い髪を耳にかけて赤面している私の顔を露わにした。

 「……可愛い……」

 そう呟いてから体を動かしてドアの前から離れた。俯いたまま彼の隣を通り過ぎるとふわりと彼独特の蠱惑的な香りが漂う。

 汗かいてるのにいい匂いがするなんておかしいでしょ!一体何を食べたらそんないい匂いがするの!?

 と思った途端自分と同じものを食べている事を思い出した。思わず自分の体を匂ってみるけどそんないい匂いは全くしない。

 イケメンって何しても何食べてもいい匂いがするものなの?なんかだか世の中ってすごく不平等にできてる……。

 そんな事を思いながらブラを自分の部屋にもう一度干し直すと、急いで支度をして家を出た。

 藤堂さんのマンションから駅まで徒歩8分、それから電車で二駅と会社まで本当に近い。以前和真と一緒に住んでいたマンションと比べると通勤が短く楽なので朝から無駄な体力を使わずにすむ。

 早速オフィスに入るといつものようにパソコンの電源を入れた。パソコンが立ち上がっている間、リフレッシュルームに行ってコーヒーを淹れる。

 はぁーいい香り。朝早く来て静かなオフィスで一服するのって結構好きなんだよね……。

 このリフレッシュルームに置いてあるコーヒーは某有名チェーン店のコーヒー豆を使っているので味も香りもそんなに悪くはない。

 コーヒーを自分の席に持って行こうと振り返ると、後ろから同じディレクターの加賀さんがマスクをつけてリフレッシュルームに入ってきた。

 「おはよう、如月ちゃん」
 「おはようございます。風邪どうですか?」

 加賀さんは藤堂さんより一つ上の35歳。既に結婚していて保育園に通う可愛い女の子がいる。

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