キミと桜を両手に持つ
それにお酒を飲まないのは、飲んでいる人を馬鹿にしているわけじゃない。
私はお酒に弱くて飲むとすぐに眠くなってしまう。もし意識でもなくして皆に迷惑をかけてしまうのではと考えると怖くて外でお酒が飲めない。私は自分のコントロールを失うのが怖い。だから常に意識をはっきりとさせておきたい。
視線を堀川くん達から藤堂さんがいる方へ向けると、佐伯くんと花梨ちゃんが一緒に座って仲良く話しているのが見えた。
……よかった。さすが佐伯くん。ちゃんと花梨ちゃんを守ってあげてる……
その隣には前田さんがいて女の子達と楽しそうに盛り上がっている。前田さんの向かい側には藤堂さんがいて、女の子達に囲まれている中、腕時計やスマホをしきりに気にしているのが見えた。
皆が飲んだり食べたりしているのを見ていると、急に食べ物の匂いに吐き気を覚えた。
どうしたんだろ……。なんか今日調子悪いな……。
急いで店を出ると、歓迎会に行く気はすっかり失せてしまった。でもなんとなく家にも帰りたくなくて再びオフィスのあるビルへと歩いた。
誰もいない暗い制作部に入るとパチンとスイッチをいれて電気をつけた。
「さむっ…」
ぶるっと震えて体を抱きしめると、温かいお茶でも飲もうとリフレッシュルームに向かった。
「コーヒーはやめとくか。緑茶にしようかな」
緑茶のティーバッグを一つ掴むと、使い捨ての紙コップにティーバッグをいれてお湯を注いだ。温かい湯気が立ち上りふーっと吹いて一口飲むと冷えた体に染み渡る。
「よし。じゃ、作業報告書の続きでも書くかな」
PCを立ち上げている間、デスクの一番下の引き出しをガラッと開けた。この中には私の好きなおやつがたくさん入っている。そこから最近私が気に入っているチョコレートを一つを取り出すと包装紙を破って一口かじった。