キミと桜を両手に持つ
「へぇ?お前藤堂さんのタイプ知ってんの?」
「知ってるよ」
そう言うと、堀川くんはクククっと意味ありげな笑い声をあげた。
「あの人さ、高橋さんみたいな可愛い系の女がタイプだから」
「はははっ。やっぱ藤堂さんもなんだかんだで普通の男だな」
三人はクツクツと低い声で笑った。
「そういえば如月さんこの歓迎会くるのかな」
坂井くんがそう尋ねる。
「さぁ…どっちでもいいけど、多分来ないんじゃねぇの?だいたいあの人酒飲まないじゃん」
「へぇ?下戸なんだ」
「違う違う。あの人、酔うなんてみっともないからって酒を一滴も飲まないんだよ。彼女が入社した時飲み会があったんだけど、あの時そう言ってた」
「ははは。何だそれ。俺ら酒飲む奴らのこと馬鹿にしてるんだろ」
三人の声がだんだんと遠ざかっていく。誰もいないことを確認すると私はパーティションの陰からそっと出た。
そのままトボトボと制作部の人たちがいるテーブルの方へと歩いていく。先ほどトイレ近くで話していた三人が席へ戻り楽しそうに話しながらお酒を飲んでいるのが見えた。
「……そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな……」
先ほど堀川くんが言った言葉を思い出してボソリと呟いた。あの時は彼に負担を感じさせないようにと「これくらいだったら私できるから」と言ったつもりだった。彼のプライドを傷つけてしまうなんて思ってもいなかった。
言葉って難しいな。どうしてうまく伝わらないんだろう……
まだ若くてしかも女である私が気難しいエンジニアの男の子達をディレクションしていくのは難しい。もちろん私も至らない所がたくさんあるし、皆に好かれているとは思っていない。でも堀川くんは私と同い年。そういう風に思われていたんだと思うとさすがに気が落ち込んでしまう。