キミと桜を両手に持つ
彼は私を椅子に降ろすとキッチンへと消えた。そしてお粥の入ったお皿とスプーンを持ってダイニングテーブルに戻ってきた。
「はい、どうぞ」
コンッと目の前に置かれたお粥には美しく切られた野菜や卵などが入っていてとても美味しそう。
藤堂さんって何でもできるんだなぁ。本当に完璧な人なんだな。
そう思いながら「いただきます」と手を合わせてスプーンを手に取った。お粥をスプーンで掬うと、フーフーッと冷まして口に入れた。
……ん? なんか……変?
甘いような塩っぱいようなすごく不思議な味がする。
気を取り直してもう一度スプーンで掬うと同じようにフーフーと吹いた。ふと顔を上げると神妙な顔つきで藤堂さんが私を見ていた。
彼が見守る中もう一口食べてみるけどやっぱり味が……変……???これどうやって味付けしたんだろう??
もしかしてわたし、例のあの味覚がおかしくなる感染病になったとか……?
彼がじっと見守る中、再びモグモグと口を動かした。
「お粥どう?」
ゴクリと口の中にあったお粥を飲み込むとニコリと微笑んだ。
「……す、すごく美味しいです……」
わたしがそう言うと、彼は突然クツクツと笑い出した。
「凛桜、一緒に同居する時に遠慮せずにちゃんと意見を伝え合うって約束したよな。正直に言って」
「えっと……。正直にですか」
藤堂さんは「うん」と頷くと少し恥ずかしそうに笑った。
「えっと……、見た目も綺麗で美味しそうなんですけど、味が変っていうか。不味くはないんですけど、その、美味しくもないというか……」
おずおずと答える私に藤堂さんは少し顔を赤くしながら笑いだした。
「ごめん。やっぱ不味いよな。一応ネットでレシピを見ながら作ったんだけど味付けだけいつも上手く出来ないんだ」