キミと桜を両手に持つ
「……嫌だった……?」
彼の低くて優しい声が耳に届く。私は目をギュッと閉じると、正直にコクコクと頷いた。
「……俺が女の子達に囲まれてたのがそんなに嫌だった……?」
「……す、すごく……嫌でした」
そう、昨日の夜、何が嫌だったかというとこれが一番嫌だった。
今でも高橋さんが楽しそうに彼の隣に座ってお酒を注いでいる姿が目に浮かぶ。それと堀川くんが藤堂さんのタイプは私ではなく高橋さんのような可愛い女の子だと言っていた事。この後、私の気分は一気に急降下した。
恋人でもない私がこんな風に思う権利も資格も何もない。でも彼が女の子達に囲まれているのを見て、私を置いて何処か手の届かない所へ行ってしまうのではないかと思って耐えきれなかった。だから彼がオフィスに戻ってきた時、私は泣くほど嬉しかった。
彼になんて思われているのか怖くて縮こまっていると、藤堂さんはいきなり私をぎゅっと抱きしめた。彼の心臓の音がいつもより早くドキンドキンと聞こえる。
「凛桜、よく聞いて。俺は君のことを誰よりも、どの女の子よりも大切に思ってる。わかる?」
藤堂さんは優しく私の額にキスを落とした。そしてそのまま唇を滑らせてこめかみに、目に、頬にキスの雨を降らせる。最後に唇をさらに下に滑らせると皮膚が触れ合うだけの軽いキスをした。
一瞬何をされたかわからなくて目を見開いたまま彼を凝視した。
な、なんで?どうして?もしかして間違って唇がかすった?
混乱しながら手で唇に触れていると、藤堂さんは大きな手でしっかりと頬を包みこみ、再び顔を寄せてきた。
「俺は君を裏切らない。約束する。絶対に君を一人にはしない」
そう言って唇を重ねると今度はしっかりとキスをした。