キミと桜を両手に持つ

 顔を赤くして狼狽えていると、藤堂さんはコツンと額を合わせた。

 「よかった。いつもの凛桜になって」

 彼はホッと安堵のため息を漏らした。ゆっくりと視線を上げると、間近に見える彼の瞳は光の加減なのか薄い緑色がかった綺麗なブラウンに見える。でもその温かい色の瞳はとても真剣に私を射抜いてくる。

 「凛桜、なにか辛いことでもあった?」

 昨日オフィスで泣いていた事を聞かれているのだとわかって慌てて目を背けた。

 「人間だから知られたくないことだってあるだろうし、何もかも全部俺に言う必要はない。でも君のあんな姿をみるのは俺も悲しい」

 私も初めはなぜあの時藤堂さんを見て泣いたのかわからなかった。もちろん風邪で具合が悪くて気が弱っていたというのもある。でも本当はそれだけじゃない。彼に手を引かれながら家に帰る途中、自分がどうしてあんなにも気分が落ち込んでいたのかようやく分かった。

 「凛桜、君が悲しい時に何故泣いているのか理由がわからないのはやっぱり辛い。俺、何か君を傷つけるようなことした?」

 私は慌てて頭をふるふると振った。藤堂さんのせいじゃない。これは私の気持ちの問題。でも一体どうやって説明したらいいのだろう?

 「……あの、その、居酒屋で藤堂さんを見た時に…」

 「凛桜、来てたの……?」

 藤堂さんがすこし驚いたように私を見た。コクンとぎこちなく頷く。

 「……あの居酒屋で、藤堂さんが高橋さんや他の女の子達に囲まれているのを見ました……」

 そこまで言ってから一旦言葉を止めた。ここからなんと彼に言えば良いんだろう。言葉に詰まってなかなか続きを言えない。

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